吃音(きつおん)は こうやって始まる
接客業では死活問題
「いらっしゃいませ」が
言えない店員。
最近まで 普通に言えていたのに・・
これは吃音(きつおん)症である。
その進行フローチャート
「いらっしゃいませ」が言えない
言えなくなった
接客業において、「いらっしゃいませ」は、
一日に何十回・何百回も言う。
これが、急に言えなくなった人が結構いる。
継続して言えない場合、
吃音・どもりが発症している可能性がある。
進捗状況 0 (きっかけ)
上手く言えていた時代に一度、
思いっきりセリフを噛んで、
死ぬほど恥ずかしい思いをした。
いらっしゃいませ。
いらっしゃいませ。
イサッセー
(あっ 噛んじゃった)
誰でもセリフを噛む事はあるが、
この時に、笑って済ませられる人と、
真剣に落ち込む人がいる。
後者の場合、この先、
「絶対に失敗しちゃいけない」と、
鬼の呪縛がかかる。
「こんな恥ずかしい思いは
2度としたくない!!」
この、
死ぬほど恥ずかしい(屈辱感)が、
吃音発症のフラグである。
その後、しばらくは意地で、
完璧な「いらっしゃいませ」を披露する。
本人も自信を取り戻し、
前回「いらっしゃいませ」を噛んだことは、
完全に忘れている。だがしかし、
2〜3週間後、忘れた頃に、思いっきり噛み、
前回の羞恥心がよみがえる。
「みんなの前で噛んだら、恥ずかしい」という
自意識が芽生え、仕事に集中できなくなる。
なお、昨日までは、
「セリフを噛む」なんてテーマを、
仕事中に考えた事は一度もなかった
この頃から、客が来店するたびに、
少し緊張するようになる。
同僚達は、「早く帰りたいな〜」とか、
「マジでお腹すいたな〜」などと、
くだらない事を考えながら仕事している中、
吃音者は、「噛んじゃいけない」、
「何が何でも噛んじゃいけない」と、
深刻な事をず〜っと考えている。
過剰な意識ゆえに、自然と体に力が入り、
表情や、動きがぎこちなくなる。
その結果、1日に4〜5回程度、
「いらっしゃいませ」を噛むようになり、
前よりも、不安と恐怖が強くなる。
(どうしたんだろう、おれ)
「いらっしゃいませ」を言う時、
「噛んじゃいけない」と、
完全に意識するようになる。
この時点で、「いらっしゃいませ」という言葉に対し、
苦手意識を持つ(自覚)。
苦手意識を持った時から、
吃音症の進行は一気に加速する。
その後、過剰な意識は、過剰な緊張に変わり、
常にガチガチの悲壮感溢れる
状態で「いらっしゃいませ」を言う事となる。
ガチガチの過度の緊張から、
頻繁に「いらっしゃいませ」を噛むようになる。
(その都度、甚大な精神的ダメージを受ける)
これはマジでツライ
進捗状況 1 (不安と恐怖)
噛むと、同僚たちに
容赦なくディスられ(バカにされ)、
客からも失笑され、自信をなくす事から、
「いらっしゃいませ」を言うのが
非常に怖くなり、
客が来ないのを願うようになる。
仕事中のほとんどを、
「いらっしゃいませ」の事ばかり考えている。
ヒマな時に、みんなで談笑している時ですら、
「客が来なければ いらっしゃいませ
言わなくても良いのに」
「いらっしゃいませ 言いたくない」
「言ったら絶対に噛んじゃう」
「醜態を晒したくない」などと、
みんなと全く別の事を考えている。
また、ふいに客が来店されると、
とっさに言葉が出てこず、どもる傾向がある。
「イッ・・、イシャッ・・、
イラッシャイマセ」のように、
単語の前半でつまずく事が多く、
言葉を最初から言い直す。
これは、最初から言い直す(修正する)事で、
噛んだ事を隠蔽しているつもりのだ。
なお、言い直さずに、
噛んでも最後まで強引に言った場合、
「イシャッセー」、「イッシャッセー」になる。
もともと完璧主義な性格のため、
それが気に入らず、噛んだ瞬間、最初から言い直す。
「イサッ、イシャッ、イラッシャイマセ」と、
噛んで言い直している時は、
最高に恥ずかしい
(プライドが崩壊&屈辱)。
進捗状況 2 (声が出ない)
症状が悪化すると、過度の緊張から、
呼吸が止まり、
声が出なくなる事がしばしばある。
実際には、失敗を恐れ、
自分でブレーキをかけ、
自分で息を止めてしまっている。
これは、失敗の屈辱から、
自己を守るための無意識の行動であり、
不随意運動に近い。
そのため、客が来店しても
「いらっしゃいませ」を言えない時が、多々あり、
「ィ・・・・」または、無言となってしまう。
客からすると、無視されたと誤解される。
息を止めて、さらに口を閉じているから、
当然 声が出ない。
口を閉じていたら
誰でもしゃべれない
(腹話術師は除く)
「やべえ、早く言わなくちゃ」
「でも、今あせって言うと絶対に噛む」
という葛藤から、
無言でも、口だけは微妙にパクパク動いており、
同僚からは、
「独り言を言っているみたい」と心配される。
口をパクパクして悩んでいる間に、
「とにかく言わなくちゃ」と、
意地でも言った場合、
口を閉じながら発声しているため、
「プパッシャッセ」となる。
(P音の破裂音パピプペポ)
「プパッシャセ」の
精神的ダメージにおいて、
その破壊力は想像を絶し、発声者に、
極めて重篤な精神ダメージを、
容赦なく与える。
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進捗状況 3(ゲシュタルト崩壊)
吃音の克服挫折者に見られる失敗として、
意図的に滑舌(かつぜつ)を悪くする人がいる。
これは、普段からボソボソッと発言していれば、
噛んでもあまり目立たないという考えである。
それに伴い、発声時、
口をあまり動かさなくなる。
これが、吃音をさらに悪化させる。
これをやってしまうと、
発声時の「口の形」を、改めて思い起こした時、
思い出せなくなる。
毎日書いている「字」を、
改めてまじまじと見たとき、
「あれ、この字って、こんな形だっけ?」
と思い始め、
やがて正確な字が分からなくなる、
「ゲシュタルト崩壊」に似ている。
「いらっしゃいませ」の時って、
どんな「口の形」してたっけ?
と考えるようになり、
でも思い出せない。
「いらっしゃいませ」の出だしの「い」の時、
口は、大きく横に開いていなければならない。
しかし、ボソボソッと話す人の場合、
口がほとんど開いておらず、
そのため、出だしの「い」の口の形が作れず、
「ウシャッセー」のようになり、
「いらっしゃいませ」の「い」が言えなくなる。
「いらっしゃいませ」と言う際は、
口の形を「い」にして言わないと、言えない。
しかし、口をあまり動かさないと、
口の形は「う」または「え」の「口」になっており、
その状態で言うと、
「ウシャッセー」「エシャッセー」となる。
「い」が言えない場合、
口を動かしていない可能性が、極めて高い。
これじゃあマズイと、
あせって自分なりに解決策を模索するようになる。
「いらっしゃいませ」以外の言葉は、
全てキレイに言えるし、緊張もない。
「いらっしゃいませ」さえ克服できれば、
再び自信を持って仕事ができるのだ。
「いらっしゃいませ」に変わる言葉があれば、
それでごまかせるかもしれない。
先輩の店員は、仕事に慣れすぎて、
「シャセー」のような短縮形になっている。
客から見ると決して好ましくないが、
「シャセー」という店員は得てして、
プロ級のベテランが多い。
元気なガソリンスタンド店員の
「アシター!!」や、
きっぷの良い八百屋の店主の
「らっしゃい!らっしゃい!」も同義である。
吃音者は、言えなくなっていまった
「いらっしゃいませ」の変わりに、
「シャセー」などの、新出単語であれば、
絶対に噛まない事を発見する。
「シャセー」は、
プロ特有の短縮形でもあり、
周囲もそのように認識しているため、
客のほとんどは、誰も気に留めない。
上手く言えないから「シャセー」に
シフトした(逃げた)と、バレることもない。
「いらっしゃいませ」と言うと必ず噛むが、
「シャセー」ならば絶対に噛まない事から、
この言い方を生涯、採用する。(渡りに船)
「シャセー」を、
「写生」「社製」と置き換える方法もある。
噛まないから、自信を取り戻し
生来のリーダーシップを発揮
ちなみに、家で一人で練習するときは、
「いらっしゃいませ」と、正しく言っても、
絶対に噛まず、100%キレイな発声ができる。
(100回中 100回言える)
(周りに誰もいないから)
(噛んでも 恥ずかしくないから)
職場でも、ゆっくり言えば
できそうな気がするものの、
やはり勇気が出ず、
終始、言いやすい「シャセー」を連呼する。
(噛まない安心感で、気分がすごく楽になる)
なお、勇気を出して、
ゆっくり「いらっしゃいませ」と言えさえすれば、
瞬時に吃音を克服できる。
しかしながら、照れと不安があるため、
想像以上に難易度は高い。
また、急に「いらっしゃいませ」と
キレイに発声できちゃった場合、
同僚に「言い方変えたんスか?」と
気づかれるのを恐れる。
(一切、「いらっしゃいませ」の
話題をされたくない)
進捗状況 4
言えない言葉が増えてくる
「ありがとうございました」
鬼門だった「いらっしゃいませ」を、
辛うじてごまかせたものの、
ここで終わらないのが
吃音の怖いところである。
上記のようなステップで、やがて
「ありがとうございました」も言えなくなるのだ。
ありがとうございました。
ありがとうございました。
アリアリッター。
(あ 噛んじゃった・・)
しかも、先の「いらっしゃいませ」の格闘の際、
すでに「吃音・どもり」の症状を、
過剰なまでに自意識しているため、
今回の「ありがとうございました」は、
吃音の進捗速度がものすごく早い。
そのため、あっという間に
「ありがとうございました」が言えなくなる。
その日の朝に「もしかしたら、
ありがとうございましたが言えないかも」と思ったら、
その日の夕方には、
完全に言えなくなっている事が多い。(即日)
「ありっ・・、ありっ・・、ありがっ・・」
と、途中までは言えるものの、後半が言えず、
「ありありありありあり」と聞こえてしまい、
周囲に「どうかしたのか?」と思われる。
ここで、噛んでも強引に言った場合、
ものすごく早口なのもあり、「アリター」、
「アリアリッター」、「アッター」のように、
完全に舌が回らなくなる。
「アリター」と言ってしまい、なおかつ、
偶然にもお客さんの名前が
「有田さん」だった場合、
確実に2度見される。
真面目に「ありがとうございました」と
言おうとすると、絶対に噛む。
元来、「いらっしゃいませ」よりも、
言いづらいセリフのため、
噛んだ場合の文言は、
なんとなく聞き取れれば良いほうで、
時として、「呪文・まじない」のようにも聞こえる。
そして、先と同様、緊張から息が止まり、
客が会計を済ませても、
「ありがとうございました」と言えない、
(無言になる)事が多々ある。
もちろん、誤解を生み、いらぬクレームを
誘発するのは、言うまでもない。
この場合も、やはりプロ特有の短縮形、
「アシター・アザイマス」なら、絶対に噛まない。
したがって、「アシター・アザイマス」の
言い方へ、シフトする。
噛まないから、自信を取り戻し
リーダーシップを発揮
進捗状況 5
言えない言葉が増えてくる A
続いて、「お待たせしました」、
「〜させて頂きます」など、
語中の「せ」が言えなくなる。
「いらっしゃいませ」や「ありがとうございました」
よりも、頻出度は下がるものの、
一日の業務の中で、
必ず10回以上は言うであろう、技巧派である。
「お待たししました。」「〜さスーて頂きます」のように、
「せ」の口の形が作れず、
「し」になる、または、
ただの空気音になる。
これも、吃音者の場合、意識した瞬間、
ただちに言えなくなる事が多い。
代替のセリフとしては、
「お待ちどお様です」がある。
ただし、接客用語としては、若干、
なれなれしい言葉となるため、
「注意される覚悟」は必要である。
それ以外では、
「お待たししました」のように、
「し」を貫くか、または、
無礼は承知で、
一切このセリフは言わないかの、
限られた選択肢となる。
「お待たししました」と言っても、
大筋の意味は通じるため、
客からツッコミを入れられる事は、
ほとんどない。
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